2026.07.19

Spotify「AI曲を7,500万曲削除」の真相。消されたのはAI音楽か、スパムか

執筆: 輪廻タヲ ・ AIを活用した音楽・イラスト・映像作品を制作するコンテンツクリエイター

"Spotify「AI曲を7,500万曲削除」の真相。消されたのはAI音楽か、スパムか"

Spotifyが「AI曲を7,500万曲削除した」というニュースが、Xや海外掲示板で広がっています。
一見、AI音楽そのものが締め出されているようにも読める見出しです。
でも、Spotify自身の発表を直接確認すると、少し違う輪郭が見えてきます。

何が報じられているのか

きっかけは、Yahoo Techの記事(2026年7月17日)でした。
見出しは、「Spotify Deleted 75 Million AI-Generated Tracks – and It’s Not Done Yet」
直訳すると、「Spotifyが7,500万曲のAI生成トラックを削除。まだ終わっていない」となります。

この見出しから、多くの人が「SpotifyがAI音楽を大量に締め出した」と受け取ったようです。

公式発表の原文を確認する

7,500万という数字自体は、Spotify公式のニュースルーム記事(2025年9月25日)が出所です。
該当箇所を直接確認すると、こう書かれています。

In fact, in the past 12 months alone, a period marked by the explosion of generative AI tools, we’ve removed over 75 million spammy tracks from Spotify.
(和訳) 実際、生成AIツールが爆発的に広がったこの12か月だけで、7,500万曲を超えるスパム的なトラックをSpotifyから削除しました。

ここで重要なのは、Spotify自身の言葉は「AI-generated tracks」ではなく「spammy tracks」だという点です。
生成AIがスパムの大量生産を容易にした、とは説明していますが、AIを使ったこと自体を削除理由にはしていません。

つまり今回の見出しにある「AI-Generated Tracks」という言い方は、Spotifyの原文ではなく、報道側の言い換えです。

音楽トラックのタイルが並ぶグリッド。大半にスパムを示す警告タグが付き、一部だけが警告なしで区別されている

なぜ、今また話題になっているのか

7,500万という数字自体は、実は2025年9月の発表がもとです。
1年近く前の数字が、なぜ今また拡散しているのか。

きっかけは、ABC News(オーストラリア)が2026年7月16日に掲載した、Spotify幹部へのインタビューだと考えられます。
Global Head of Artists, Marketing and PolicyのSam Duboff氏が、この場で改めて7,500万曲という数字に言及しています。

同インタビューでは、次の点も語られています。

インタビューの要点
・スパム的な曲はタグ付けし、おすすめから除外する
・悪質なスパムは、サービス自体から削除する
・AIを創作にどう使うかは、アーティスト自身が決めるべき
・AIを使った場合、リスナーへの開示が重要
・完全にAIで工業的に生成された曲が、実際の再生に占める割合は1%を大きく下回る

つまり、Spotifyが問題にしているのは「AIを使ったかどうか」ではなく「何のために、どう使ったか」、という位置づけです。

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Spotifyが実際に問題視している行為

Spotifyの説明を整理すると、削除・おすすめ除外の対象になっているのは、次のような行為です。

問題視されている行為
・短期間の大量投稿
・同一・類似音源の重複配信
・アーティスト名やタイトルを使った検索順位の不正操作
・不自然に短いトラック(再生回数稼ぎ)
・不正な再生・水増しストリーミング
・実在アーティストの声を、許可なく複製した音源

最後の「無許可ボイスクローン」について、Spotifyのサポートページを確認すると、Yahoo記事の「即座に削除」という書き方より、実際の運用は慎重です。

Spotify doesn’t know whether the use of another artist’s voice is a cleared sample or collaboration, so we must receive a claim from the artist… We review every submission and will take action as appropriate.
(和訳) 他のアーティストの声の使用が、許諾済みのサンプルやコラボかどうか、Spotifyには判断できません。そのため、本人からの申し立てを受ける必要があります。すべての申し立てを審査したうえで、適切な対応を取ります。

つまり、Spotifyが自動判定でボイスクローンを検知して即削除しているわけではなく、申し立てを起点にした審査制だということです。

7,500万曲は、そのまま収益の被害額ではない

Yahoo記事の書き方は、7,500万曲という数字を、そのまま独立系アーティストから奪われた収益であるかのように読ませます。
ただ、これはいくつかの点で慎重に扱う必要があります。

まず、7,500万という数字は12か月間の累積削除数であり、Spotifyのカタログ総数のスナップショットではありません。
削除された全ての曲が、実際に再生・収益化されていたという裏付けもありません。
Spotify自身、工業的に生成された完全AI楽曲の消費割合を「1%を大きく下回る」と説明しています。

そして、削除と「おすすめから外す」は別の対応です。
Spotifyの説明によれば、まずタグ付け・おすすめ除外という段階を踏み、悪質なものだけをサービスから完全に削除しています。

以前の記事で触れた「AI Slop」の問題、つまり大量生産されたAI楽曲が検索結果を埋め尽くしていく現象と、今回のニュースは根っこの部分でつながっています。
Spotifyがここで削除しているのは、まさにそのスパム的な大量生産の部分です。

AI音楽をやっている身として、思うこと

正直、このニュースを最初に見たとき、身構えました。
「AI音楽が締め出され始めている」という文脈で語られることが増えているからです。

でも、一次情報を確認して、少し安心しました。
Spotifyが問題にしているのは、AIを使ったこと自体ではなく、音楽を検索順位とロイヤリティを奪うための数字として扱うことです。
一曲を作品として育てている人と、何万曲も自動投稿している人を、同じ「AI音楽」という言葉でひとくくりにするべきではないと思います。

同時に、これは他人事でもありません。
今回のような報道は、見出しだけが独り歩きしやすく、AI音楽全体への印象を必要以上に悪くするリスクがあります。
だからこそ、まっとうに一曲ずつ発表している側が、変にスパムと同じ枠で見られないよう、自分の活動を積み重ねていく必要があると思っています。

具体的に、AIアーティストとして気をつけたいのは、次のような点です。

気をつけたいこと
・短期間に大量投稿しない
・同じ曲の微修正版を大量に配信しない
・実在アーティストの声を無許可で使わない
・検索順位を不正に狙う行為をしない
・再生回数を水増しするサービスを使わない
・AIをどう使ったか、聞かれたときに説明できる状態にしておく

Spotifyのようなプラットフォームが、スパムと真っ当な創作を分けて扱おうとしていること自体は、AI音楽を続けている自分にとって、悪い話ではないと思っています。
問題は「AIを使ったかどうか」ではなく、「どう使うか」。
その一線を、自分自身で守り続けたいと思います。

輪廻タヲ

輪廻タヲ / Rinne Tao

AIを制作に活用するコンテンツクリエイター。音楽、イラスト、映像作品を中心に発信しています。

最新作品やAIに関する考察はXで発信しています。

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